初めてのご注文、ありがとうございます。前々から、弊社の常連客が「セクゾに書き下ろすべし」と呟いていらっしたのをめざとく盗み見「いずれぜひ」と、アップしては居りました。
とは言えいざ具体的に取り組み始めると途端に頭を抱えた。菊池氏、中島氏、佐藤氏、松島氏。それぞれに声のレンジごとの面白みが盛りだくさん。どの成分も余すことなくパッケージしたい。こちらの煩悩を駆り立てる罪な銘器揃いなのである。
菊池氏の豊かなハイノートはどうだ。喉だけでなく全身からの出力で頼もしく歪む太い高域。自然低域も底なしだ。TOKIOへ書き下ろした『雨傘』を唄ってくれた際、すでに確認済み。
中島氏の鮮やかなカラーバリエーションよ。詞曲やサウンドに対する感受性。智力で裏付ける官能。『真夏の脱本者』にて本家SMAPの色を彼一流の外連味で塗り替えたのも目撃済み。
佐藤氏のメロトロンの如きこの甘苦い響きは何としようか。鳴呼わたし十二肱のアコースティックギターのうえにふあっと乗っていただきたいです。そのためだけの曲を書かせてくれ。
松島氏の哀しみを湛えたオーボエみたいなミッドは何ゆえ。できることなら海風を模したハープの合間へ、永遠に変わらぬ生きとし生けるものの嘆き、絞り出していただけやしまいか。
ねえもうなんか、ぜんぜん纏まらなくてこまりはてました。勿論メ切は来てしまいます。作家としての欲が呼び起こされたまま。当座一曲納品いたしますものの、この『本音と建前』は食材を買い溜めし過ぎて、開けるたび中から品物が落ちてくる冷蔵庫みたくなっちゃった。どうもありがとうございました。
椎名林檎