2022年2月11日に開幕するミュージカル・コメディ『恋のすべて』に主演する稲垣吾郎。舞台となるのは、1930年代のアメリカ。稲垣は「娘を一晩だけ恋に落としてほしい」という依頼を受けた、人の良い探偵ニック・テイラーを演じる。黄金時代のハリウッド映画を思わせる、甘く華やかな世界を、稲垣はどう魅せてくれるのだろうか?
台本もすごく面白いし、探偵役と言ってもあんまり探偵らしいことはしないのですが、中年の男性が今まで人生いろいろと経験してきた中で、まだちょっとドキドキしていたいような思い。恋はもうしなくなったのかな、とか思いながらも、なんかまだちょっとドキドキしたり、ゆらゆらゆらゆら心が動いてしまったりとか。そういったものが今回は描かれているので……ちょっとコミカルにね。それが自分の心境とも上手く合っているのかな、と。等身大ですね。
―鈴木さんから引き出されるのは、吾郎さんのどんな部分ですか?
僕の調子の良さとか、意外とおしゃべりなところとか、ですね。稲垣吾郎は実はおしゃべりなんです。あとは“人たらし”なところとか(笑)。
僕のパブリック・イメージ的には、そういうふうに当て書きしないと思うんです。今までやってきた役はサイコパスだったり、天才音楽家だったり、今度やる大正時代のドラマ(NHK『風よ あらしよ』)では、辻潤(日本を代表するダダイスト)の役ですから。本当は違うのにな? っていう役の方が多いんですけど、鈴木さんは僕の資質というか、僕の少しコミカルなところもわかってらっしゃる。だからすごく“見られている”のがわかります。自分の言葉すぎて、セリフを言うのが恥ずかしいほどです。
―探偵ニックと、彼が恋を仕掛ける令嬢コニーとは年がかなり離れていますが、そういう関係はどう思われますか?
憧れのある人は少なくないでしょうね。女性でも男性でも、年上でも年下でも。若いときは年上の女性に憧れるし、それなりの年齢になったら若い方の魅力というのもわかる。もちろん、僕くらいの年齢であっても年上の方を魅力的に感じることだってあります。ジェネレーションが違うからこそ惹かれ合う、というのはやっぱりありますよね。時代が一周したことで同じようなものが好き、とか。
――若い精神と肉体はどうしたら得られますか。
稲垣:常に自分と向き合うことーー自分に興味を持ち続けることが大切かな。基本的なきちんとした生活を心がけること。運動や美容も含め、ある種のナルシズムも必要だと思います。同時に、外の世界にも興味を持つべきですよね。いろいろな人と出会い、音楽やエンタメなどに触れることが大事です。あとはなんといっても、恋するってことですね。
稲垣のプライベートの謎にも迫った。何と「フィルム写真が趣味で暗室まで作りました」(稲垣)という。伊集院も「かっこいいじゃないですかー!」。稲垣は「ネガさえあればなんでも現像できるので。大正時代のネガとかも現像しました」と、かなりハマっているようだ。
あとは「モデルガン」も趣味なのだそう。多趣味な一面を見せた。
――今回演じられるのは、ニック・テイラーという探偵の役ですが……。
実年齢よりも少し年下の役なんですが、人生のいろんなことを経験してきた中年男性で、でもまだなんかちょっとドキドキしていたいとか、心がゆらゆら動いてしまうところなどがコミカルに描かれているので、そういう部分が自分の心境とも合うように感じますね。なので、等身大の役ですよね。
――ご自身と似ていると感じる部分は多いですか?
当て書きで書いてくださっていることもあって、やはり似ている部分は多いと思います。僕は週に3回、生放送と収録でラジオをやらせてもらっているんですが、ラジオはテレビよりも「素」の部分がにじみ出てしまうので、隠せないところがある。そういう感じがこの役にもありますね。きっと、20年ずっと一緒にやってきた鈴木さんだからこそわかる「僕」なんでしょうね。グループ活動をしていた頃は、テレビで話したりするときなど、どうしても自分のポジションとかキャラクターみたいなものがあって、どこかで「そういう役割を演じていなきゃけない」というサービス精神があったりしましたけれど。
あとは、物語がうねっていく中で、ニックは様々な「選択」をして生きていきますが、その選択の仕方であったり、状況の判断の仕方が似ていると感じますね。自分が曝け出されるようであんまり言いたくないですけど、そういうシリーズの作品ですからね。僕自身も成長しているし、年を重ねて時代と共に変化していますから、ニックは「今の僕」なんじゃないでしょうか。
――最近、ドラマや映画などでも「恋愛」をテーマにした作品は以前より少なくなったと感じますが、稲垣さんからみて恋愛・ラブロマンスを描いた作品の魅力やおもしろさはどんなところに感じますか?
やっぱり、みんな恋はしていたいものなんじゃないでしょうか。恋をしているときって、バラ色じゃないですか。この「恋と音楽」というシリーズも“恋と音楽があれば人生バラ色”というテーマでずっとやってきているんですけど、恋がもたらすキラキラ感っていつになっても失いたくないものだし、そういうときって人は輝いて見えますから。
舞台の話から自身の恋愛トークになると、稲垣は「難しいですよね、そういうのって」「グイグイいけないじゃないですか、このくらいの年齢になってくると」と吐露しつつも、興味を持った人には「意外と積極的かもしれない」と告白。
「計算とかじゃなくて。自分の気持ちを情熱というか、ストレートに伝えていくっていう、シンプルだと思うんですけど」と、意中の人には自らアプローチすることを明かした。
さらに、自身が受け身の場合は「胃袋を掴まれる」とキュンとするという稲垣。
「昔はそんなこと考えなかったけど、1人暮らし長いとさ。ちゃんとしようとしてても、外食がダメってわけではないけど、なかなかお家で手の込んだものを作るとか、できないときもあるじゃない」と年齢を重ねたことで感じた変化を語り、山崎から“ときめく料理”を聞かれると「玄関開けて、だしの香りがしたらやられちゃう」と照れながら答えていた。
結婚への意識に変化はあった?
「とくに変わったっていうのはないですね。これまでも悩んだことはあったけど具体的にはなくて。今後どうなるかな、と。今回の舞台のように揺れてるんですよ」
恋も仕事もあまり躊躇しない
「恋愛は慎重派というより、意外と積極的な感じかな。僕は女性に落とされた数よりも落としたほうが多いので(笑)。恋愛に限らず自分に興味があることに関しては深掘りするというか、探求していくほうなんです。そういった意味では、恋も仕事もあまり躊躇しないでいくタイプです」
「でも、僕はお話をたくさんして、お友達みたいになってからシュッと落とすみたいな。ある意味、いちばん悪い男のパターンかもしれないです(笑)」
「願望ってほどではないんですけど、散歩しているときに子どもと手をつないでいるお父さんを見ていると、家族っていいなって思ったりします。昔はそんなこと思い浮かばなかったんですよ。みなさん子どもができると、“何で今までほしいとすら思わなかったんだ”って言うじゃないですか。
いまはひとりだけど、誰かのために生きるという未知の経験もしてみたい。そういう意味では、家族のために生きるという時間があってもいいのかなと、最近ふと思ったりするときもあります」
「僕の初めてのアメリカはニューヨークで二十歳くらいのとき。それこそ森(且行)くんもいたし、『がんばりましょう』とか出したころだったと思うんです。そのときプロモーションビデオを撮ったり、レコーディングもちょっとしたのかな。あとブロードウェイも見たりもして、本当に強い刺激を受けたのがいまでも心に大きく残っていて。東京も大きな街ですが、スケールの大きさをすごく感じたのが初めてのアメリカの思い出です」
──鈴木さんと出会って20年ということですが、稲垣さんにとって一番よかったなと思うことは?
一番はやっぱり音楽ですね。鈴木さんとの出会いでジャズと出会って、亡くなった佐山(雅弘)さんと出会えたし、バンドのメンバーとも出会えた。おかげでジャズの世界を、深掘りとまではいかなくても僕なりに探っていこうと思ったので。それにミュージカルという形で、歌手としてもう一度歌ってみようと思ったことは大きいですね。それまでは、音楽はグループとしての表現の1つでしかなくて、ソロで歌うことはあまり考えていなかったから。そういう意味ではまた歌う楽しさを味わっています。そして、そんな僕の楽しさが、観てくださる方たちにも伝わればいいなと思っています。
──鈴木さんとのタッグは7作目になるわけですが、その中で稲垣さんのどんなところが引き出されていると思いますか?
僕のちょっと調子のいいところとか、実はおしゃべりなところ(笑)、それに人たらしなところかな(笑)。僕は今度始まるドラマ(『風よ あらしよ』NHK)では辻潤(ダダイズムの思想家)の役ですし、サイコパスだったり、天才音楽家だったり、自分とはまったく違うような役の方が多いんです。でも鈴木さんは、僕の本当の資質をわかっていて、少しコミカルなところとか明るいところとか、そういうところまでよく見ている。だから書かれる台詞なども自分の言葉すぎて、セリフを言うのが恥ずかしいくらいです(笑)。
稲垣:う〜〜ん……、どうだっただろうなぁ。実は惚れっぽい性格だと思うんです。たとえば映画館で涙するとか、本を読んで感動するとか、ワインを飲んだ一瞬で想像をめぐらせたりとか、背景に影響を受けたり、グッと気持ちが引き込まれたりすることは、日々、けっこう多いんです。だけど、“対女性”という意味では、ぼくは落ちるより落とした経験の方が多いかもしれないですね。こう見えて、けっこう積極的なんですよ、ぼく(笑い)。
稲垣:バレましたか?(笑い) たとえば“結婚は正義”という圧力について女性ディレクターが調査してきてくれたときも、ぼくはそもそも“圧”を感じたことはないしなぁ……と。未婚者と既婚者を分ける必要はないんじゃないかとも思ってしまって。時代によって結婚観は変わってきたし、さらにいまは自由な世の中になってきたし、いろんなカタチがあっていい。今後はさらに変わっていくだろうって思うし……、ねぇ。どうなんですか、先生、教えてくださいよ。
稲垣: 目からウロコだよね。趣味が合うとか、そんなことよりも、出会った瞬間に「この人と結婚するんだ」とビビッてくるとおっしゃっていた。結婚について、ずいぶん考えさせられた時間だったことは確かだけれど、ぼくの根底にあるのは「結婚したいとは別に思ってない」だからねぇ(苦笑)。
とはいえ、今後自分の人生であるのかなぁと思わないワケではないし、いつも言っていることだけれど、人生、何があるかわかんない。ほんとに明日するかもしれないし、明日、誰かに出会うかもしれないし、ぼくはたまたま、そういう相手に巡り合っていなかったというだけ。“いままで”を否定するワケでは決してないんだけれどね。
稲垣:そうだよねぇ。一つの作品で一緒の緊張感を味わったり、感情移入したりして恋仲になってしまうというのは、わかりますね。自然なことだし、あると思う。なのにぼく、みんなにフラれちゃってるじゃないですかぁ。な〜んだ〜、剛力サンとつきあう予定だったのにぃ(笑い)。いやいや、冗談ですよ、冗談! ぼくは今年もマイペースでいくし、この人と結婚するんだって思える運命的な人に出会ったら結婚しちゃうと思うよ。そんなことがもしも今年あったら面白いよね?
探偵役の稲垣は「(作・演出の)鈴木聡さんのお芝居は、僕にとってはお仕事とは思えないほど楽しくて、自分へのご褒美みたいな感じです。お芝居をしている間は、甘くキラキラした夢の中にいるみたいな感じがします。みなさんにも劇場で楽しんでいただけたら」とPRした。
演出の鈴木氏は「粋な大人のミュージカルができました。キーワードは『スウィング』。音楽もスウィングだけど、登場人物の心も揺れ続けます。ドラマも笑いもいい歌もたっぷり。吾郎さんをはじめ、俳優陣がほんと魅力的。自信作です。ぜひ観てください」とコメントした。
【あらすじ】
ニック・テイラー(稲垣吾郎)は探偵。過去に大切な探偵仲間シドを事件で亡くしている。シドの未亡人に送金しているためいつもお金がない。
クラーク・キャンピオン(羽場裕一)は、手広く事業を行う経営者。コニー(花乃まりあ)という箱入り娘がいるが、最近、テディ・モーリー(松田凌)という若者が娘の周りをうろついていることを苦々しく思っている。
ただ、富豪の未亡人でテディの母、カミラ・モーリー(北村岳子)に工場への投資を頼んでいる手前、テディを追い払うことはできない。テディはどうやらコニーの20歳の誕生日にプロポーズをしようとしているらしい。
クラークは、カミラからの投資の契約が終了するまで、コニーをテディから遠ざけるという任務をニックに依頼する。「娘を君との恋に落としてくれ」。
破格の依頼料に、仕事を引き受けるニック。一緒に時を過ごすうち、二人の間には「恋のような感じ」が漂いはじめる・・・。
さらにクラークは、自分の愛人ザラ・エイミス(石田ニコル)を使ってテディを誘惑しようとする。
やがてカミラはテキサスの油田開発事業への投資が失敗し財産を失う。クラークも缶ビール事業が失敗に終わり財産を失う。損得抜きの関係の中で二人の間には心の交流が生まれるのだが・・・。