生活にはなかったですが、価値観の変化はありました。人に対する思いやりや感謝の気持ち、そして人とのつながりが、より大切だと感じるようになったんです。コロナがあるからというよりも、一人で考える時間が増え、立ち止まって色んなことを見つめ直すきっかけになったからだと思います。
僕はデジタルとアナログの両方をまたいできた世代だし、それぞれの良さをちゃんとわかっていたいですね。「モノが好きでアナログを大切にしたい」というのは信条としてあるので、うまくチョイスしながらみなさんに届けていきたいです。
――今年はコロナの感染拡大があり、毎年のように大きな災害も起きています。災厄時の有名人の役割をどのように考えていますか。
稲垣: 東日本大震災の時に、「歌の力によってすごく救われた」との声をたくさん聞きました。あのとき、多くのアーティストが自分の生きる意味や、活動してきた価値を改めて感じたと思います。
僕もそうでした。出演していた番組で何度も被災地に行ったんですけど、「エンターテイメントが求められている」ということを痛感しました。
困ったときには現実から離れて、楽しい気持ちになりたいと思うことが僕もあります。音楽はメッセージを伝えることもできれば、腹抱えて笑いたいって気持ちに応えることもできる。
ほかのエンターテイメントからも救われたり、勇気をもらったり、助けられたり、暇つぶしになったり…誰だって生きていたら厳しいことがある。そんな時の支えになる力が、あると思います。
届けた作品を喜んでもらえたり、誰かにとっての宝物のようになったりするなら、それ以上に幸せなことはありません。僕が何を求められているかは、人によってそれぞれだと思うけど、ちゃんと耳を傾けて、応えていきたいですね。
作家の湊かなえさんも寄付してくださったのですが、「どこにしたらいいかわからなくて、うずうずしてた」とおっしゃっていた。タイミングがよかったですね。募金ファンドはずっとやりたいと思っていて、コロナが流行する前から計画していました。
まだまだ始まったばかりだし、世の中がこれからどうなっていくかわからない。この活動は意欲的に続けていきたい。それに寄付して頂いた皆さんのお名前はみなさんに知ってもらいたいと僕は思うので、定期的に公表していきたいですね。
――寄付をしてくれた人の中には、中居正広さんのお名前もありました。
稲垣: そうなんです。もう本当に感謝しかないですよね。
僕らが募金をしているからってわけじゃなくて、「寄付したい」っていう本人の気持ちがあって、僕らのファンドを選んでくれたんだと思います。「困ってる人の役に立ちたい」っていう中居さんの思いでやったこと。そういう風に愛を分けてくれたという話を聞いたときは、すごくうれしかったですね、
困っている人の力に少しでもなれたことを考えると、本当にやってよかった。何かしらお役に立てていたらすごくうれしいし、中居さんも多分、喜んでくれているんじゃないかなって思います。
――先が見えない状況が続いています。今回のフォトエッセイを手に取る方にはどんなことを感じてもらいたいでしょうか?
稲垣: 「女だから」とか「男だから」みたいな従来の価値観をなくしていきたいですね。あらゆることは、女性も男性も一緒に楽しめると僕は思っています。男だって花が好きでいいし、美容に興味があってもいい。「女性だからこうしなければいけない」っていうような考え方は好きじゃないんです。それが僕の個性であり、価値観。このエッセイでは、そこを楽しんでもらえるんじゃないかな。男性にもすごく読んでもらいたいですね。
花が好きなので花屋に行くのはルーティーンなんですが、コロナ禍で、花屋で男性に出会う確率が高くなりました。家で過ごす時間が多くなって、いつもの風景にちょっと一輪、花を飾ってみようと考える人が増えてきたんだと思います。お祝いごと向けの花は売れなくなっているようですが、「生活の中で花を取り入れる人が増えている」と花屋さんがおっしゃっていました。男性もすごく、変わってきていると感じます。
だから、女だから男だからというのは今の時代はない、と思うんです。女性も男性もみんな一緒に、素敵な年の取り方をしていければ、いいですよね。