「もともと、アイドルや俳優になりたいっていう強い思いがあったわけじゃなかった」という稲垣さん。それでも約30年もの間、誰もが知る国民的スターとして第一線で仕事をしてきた。
人気稼業で、移り変わりも早い芸能界で、長きにわたって活躍できているのはなぜなのか。一つの道を究めたプロフェッショナル、稲垣吾郎にとっての「いい仕事」に迫る
でも、最近は、何を演じるか、どう演じるか以上に、本人の資質みたいなものが問われているのを感じます。
アイドルで見た目が良ければいいっていうだけじゃなくて、自分自身の『人間性』が問われる年齢になったんだと思います。
寝る暇もないくらい忙しかったり、キャパシティーを超えてきたりすると、仕事のモチベーションや取り組み方は変わってしまいますよね。
特に20~30代は本当に忙しかったので、今よりも少し雑だったかもしれません。一個一個の仕事をこなすことで精一杯だったし、グループはやっぱりチームプレイなので、自分の立ち位置を意識してやってきました。
その分、「誤解も多かったと思います」と稲垣さんは続ける。
それが駄目だったわけじゃなくて、僕はそこに尽くしてきた。だから、今の方がのびのびと自分を表現できているかもしれないですね。
今は、個人商店ですから(笑)。グループにいた時は大手企業で働いていたようなもので、企業戦士として戦ってきた感じがあるかな。
それも自分には必要な経験だったと思うし、そこで培ってきたことは大きいし、当時の自分も決して嘘ではないですけどね。
これまでを否定しているわけでは全くないんですけど、何十年も同じグループで、同じような環境でお仕事をしていると、少し凝り固まってくる。
自分の考え方やスタイルが固定化してきちゃうところはあったので、そういう意味では生まれ変わって新しい自分に出会えた感じはあります。
とはいえ、“稲垣吾郎らしさ”は昔から変わっていないんですけどね。
僕の仕事はルーティンでもあります。
例えばですけど、舞台は毎日同じことをやるんですよね。精度をキープしつつも、凝り固まらず、鮮度を保ちながらやるお芝居が理想。
ルーティンの中でも新鮮さを失わない。そのバランスかなと思います。
僕は子どもの頃から仕事をしているので、自然と身に付いていることも多いです。
ただ、何事にもちゃんと興味を持つこと、あとはオンとオフをはっきり切り替えることかな。僕は寝ても覚めてもというのは好きじゃなくて。
趣味ならいいですけど、お仕事や人間関係には没頭しすぎない。メリハリがあるからこそ、バランスが取れるのかなと思います。
まさかこの歳まで芸能界でやっていけるだなんて夢にも思っていませんでしたし、『新しい地図』の活動はゼロからのスタートだと思って始めたこと。
今こうやって仕事ができているのは、何度も言いますけど支えてくれているファンの方たちが一番。
そして、その環境を整えてくれるスタッフの方々や、僕の価値観みたいなものを面白がってくれる方たちのおかげです。
どんどん新しい才能が生まれて、年下のスタッフの方も増えていく中で、それでも僕を使ってみたいと思ってくれたり、僕からインスピレーションを得て作品を作ってくれたりと、常に素材として必要とし、面白がってくれている人がいる。
タレントという商品にとって大切なことだと思うので、そう居続けられていることが本当にうれしいですし、感謝していますね。
新鮮さと、緊張感が大事なんじゃないかな。一つの固まったルーティンになっちゃうと、怖いよね。
それが必要な世界もあると思うけど、閉鎖的になっていっちゃう気がする。
今も緊張することはある? そう聞くと、「なくなってきてる。やばいね」と率直な返答が。「でも、もういいんじゃないかとも思う」と続ける。
仕事が稲垣さんに与えてくれたものは? 最後にそんな質問を投げ掛けると、間髪入れずに「人生の全てですね」と即答。
稲垣さん
仕事が今の自分を形成していると思うので、働いていなかったとしたらっていうのは、もう想像できないです。
芸術家のゴッホは素晴らしい作品を残しているのに、生きている間に評価はされなかった。
天国で喜んでいるかもしれないけど、生きている間にそれを感じられないと、いい人生って思えないよね。
とはいえ、稲垣さんの目指すものは、大げさなことではない。
稲垣さん
僕はあまり爪痕を残すっていう言葉は好きじゃなくて、同時に生きている人間の心を動かしたいんです。
僕、今回の『やりすぎない、でしゃばりすぎないのが好きです。』っていう本の帯が大好きで。これは僕のモットーでもある。
野望はないけど、それが自分らしいかなとも思いますね。
リモート取材中は「ワンセンテンスが長いですか? おじさん特有の話がしつこいみたいな雰囲気ない?」と心配そうな様子も。吾郎さん、優しい……!
一緒に時間を過ごしてきたファンの方が多いので、皆さんにとってもいろいろな発見や気づきがあるんじゃないかな。ファンの方たちとは近くで一緒に歩んで来たっていう感覚がいっぱいあるので、皆さんにもいろいろ感じてもらえるものになっているかなと思います。