この本は、ファンの方に花束を贈るような感じというか、今までの感謝の気持ちも込めて、本自体にブーケみたいなニュアンスがあってもいいかなと思ったんです。
本当に、世の中は大きく変わりましたよね。ただ僕自身の生活においては、あまり変わらないことが多いです。と言うと、とても不謹慎に思われるかもしれないのですけど、「おうち時間」も僕は元々好きですし、一人で暮らしているので環境はあまり変わっていません。
ただ、やっぱり仕事は大幅に変わってしまったことが多いですよね。毎日色々なニュースが耳に入ってくる中で、僕の中の価値観でいうと、より人に対する思いやりや感謝の気持ちが大切だなと実感するようになりました。それはコロナで、というよりも、一人になる時間や考える時間がどうしてもできてくるので、がむしゃらに働いて忙しかった昔に比べると、一度立ち止まって色々なことを見つめ直し、考え直すきっかけにはなったかなと思います。
忙しかった20代、30代では忘れていたことが多かったので、今時間のある中で立ち止まって思い出すと「20代の頃ってこういうものが好きだったな」とか「あの頃こういうことがやりたかったから、今もう一回やってみようかな」と思うんです。そういう過去のことに思いを寄せて、もう一度やってみたいなと思うことが増えました。僕はもしかしたら、一度タイムスリップして、過去に思いをちょっと戻してみたのかもしれないです。今、20代の頃の自分とすごく仲良くなれそうな感じがするんです。
元々人とお話することは僕も好きですし、自分で言うのもなんですけど、割と聞き上手だと思うんです(笑)。僕がまだ20代前半の頃、雑誌で村上龍先生と対談したことがあって、その時に「稲垣くん、話聞くの上手だね」って言ってもらったことがすっごく嬉しかったんですよ。
『ドンナ・アンナ』は、人に薦められて読んだんですよ。すごく抽象的な作品なんですが、今まで全く読んだことのない世界観や表現で「こういった作品もあるんだな」という事に単純にびっくりしたというか。それまで見てきた映画や本にそういったものは描かれていなかったので、見たことのない世界観に衝撃を受けたなと思ったんですけど、その後に島田さんの『僕は模造人間』を読んだ時はさらに衝撃を受けました。
こういうキャラクターを主人公にして一つの小説を創るということに驚いて、どちらかというと『ドンナ・アンナ』は入り口で、『僕は模造人間』の方がすごく鮮明に記憶に残っていますね。
「いつか島田さんと一緒にお仕事できたらいいな」と思っていたら、その後対談させていただいたり、「100分deナショナリズム」という番組でも共演させてもらったりして、ご縁を嬉しく感じています。先日読んだ『絶望キャラメル』も面白かったです。青春群像劇なんですが、島田さんの他の作品も好きでよく読んでいます。